大雪、台風、落雷、突風や竜巻、ゲリラ豪雨、土砂災害…
尾瀬ヶ原の花粉分析などによると、8世紀半ばから13世紀末にかけても現在のように温暖だったようで、「奈良・平安・鎌倉温暖期」と呼ばれているそうです。
落雷による都の大火、干ばつや大雨、洪水、疫病の流行…。
科学などというものは無かった時代、雷ひとつとってみてもその正体も対処法も分からなかった時代、人々の恐怖や不安はいかばかりであったでしょうか。
戦乱や頻繁な遷都、たたりや怨霊にまつわるさまざまな風評、陰陽師の台頭などに、当時の人々の気持ちが偲ばれます。
奈良の大仏建立の背景にも、こうした社会的不安があったそうです。初代の「東大寺大仏殿」は、高さ約37m、奥行約53m、間口は現在のものより広い約86m。世界最大の木造建築物でした。
14世紀の初頭に書かれた兼好法師による「徒然草」には、「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑きころわろき住居は、堪へ難き事なり。」とあります。エアコンの無い時代、近年のような猛暑が到来すれば、なにはさておき暑さ対策ということになったでしょう。
しかしその頃からすでに気候は寒冷化に向かいはじめていて、やがて17世紀をピークとする「小氷期」が訪れます。兼好法師がもう少し長生きしていたら、「冬をむねとすべし」と言っていたかもしれません。そして、20世紀になるとまた温暖化に向かい、現在に至ります。
家の造りや建築物の歴史は、その時代の気候や社会、人々の気持ちを反映し、懸命に適応しようと試みた歴史でもあったのです。
さて、現在の住宅や建築物を見て、後の人々はどんな時代を想像するのでしょうか。
CO2削減、大地震のリスク、気候変動、デフレ経済、緊縮財政…。「暑い夏」に「寒いフトコロ」。最近の住宅の省エネ化やローコスト化はこうした自然的、社会的環境変化への適応の現れとも言えます。
だからといって、そのことばかりに気を取られていると、「時代に適応」するのではなく、いつしか「時代に翻弄」されているだけになってしまうかもしれません。住宅の設計で忘れてならないことは、どんな時代や環境であっても、住む人の感性や価値観、生き方を尊重し、住まいを「住む人に適応」させることだと思います。
住まいは、なによりも住む人「あなた」自身に最もよく適応していなければならないからです。
中島桂一