2014年3月4日火曜日

「間取り」と「部屋取り」

ワクワク係数

 以前、新築されて2,3年たったお客様から
「家事をしながら家の中を動き回っているだけなのに、何でこんなに楽しいのかしら」
 と言われたことがあります。
 設計の打合せをしている時でも、とてもシンプルなプランなのに生活の流れやリズムが感じ取れてワクワクする時もあれば、採光や風通し、動線、使い勝手などは申し分ないはずなのになぜかワクワクしないプランに悩む時もあります。
 この「ワクワク係数」の違いがどこから来るのか考えているうちに、「間取り」という言葉に答えがあるような気がしてきました。
 

間取りと部屋取り

 そもそも「間」とはなんでしょうか。
「間が悪い」「間延びする」「間抜け」「間合いを取る」「間を空ける」「彼の持つ独特の間」など、通常私たちは人や自然、リズムやタイミング、環境やエネルギーなどが作り出す「その場の雰囲気」を表す時に「間」という言葉を使っているような気がします。
 まだ「時間」と「空間」という言葉や概念がなく、そういったものを一緒くたに感じていた頃の古い言葉なのではないでしょうか。
 
 人は住まいの中に様々な「その場の雰囲気」を求めます。
 緊張する雰囲気やリラックスする雰囲気、活発な雰囲気や落ち着いた雰囲気、力が集中する雰囲気や拡散する雰囲気などなど。
 「間取り」の「間」とはこうした「空間の持つ雰囲気」のことと言えないでしょうか。
 雰囲気や空間ですから必ずしも境界や輪郭がはっきりしているとは限らず、目で見るよりは五感で感じるもの、空気かエネルギ-の塊のようなものと考えられます。必ずしも壁や天井で囲まれた「部屋」を意味するものではないようです。
 

間取りと間仕切り

 したがって「間取り」は家の中にいろんな「間」を仕組むことであり、「生活の様々な場面に適した雰囲気の場を作ること」といえるのではないでしょうか。
 そして「間仕切り」はそんな間と間の関係を調整する役割をしているのだと思います。ですから壁や建具で仕切ってはっきりと雰囲気を変える方法だけではなく、距離や仕上材の質感、色、光や窓の加減、天井や床の高低差、目線をさえぎる柱や手摺、格子、家具、温度の高低差を利用するなど、気配を残して緩やかにまたは曖昧に変える方法も考えられます。心の中だけに存在する間仕切りもあるかもしれません。 
 例えば「田の字」型の古い民家の場合、ふすまや板戸をはずすといくつかの部屋がひとつにつながります。しかし依然として南の窓際には暖かくゆったりとした間があり、北の奥には落ち着きと緊張感を持った間があります。床の間や仏壇、神棚の前には神聖な間が存在し、掘りごたつの4辺には家族それぞれに居心地の良い間があります。そうしたたくさんの間が欄間(らんま)や敷居、鴨居、大黒柱や家財道具、時には畳のへりなどによって、ゆるやかに仕切られています。
 

間を旅する

 さて、みなさんのお住まいにはどんな間がありますか。一つ屋根の下に異なるいくつもの間を感じ取ることができたとき、「家の中を動き回る」と言うことがちょっとした旅行のように楽しくなるかもしれません。
 間を旅するときの心の動きによって、生活に良いリズムやメリハリ、躍動感や生命力、そして豊かな感性や情緒が生まれ、そこから家族に良い生活習慣が生まれ、良い人格が育まれ、良い人生を送れるのが「良い間取り」といえるのではないでしょうか。
中島桂一