2015年1月29日木曜日

住まいづくりの「ワクワク係数」

 最近、あちこちで「ワクワク○○」という言葉を耳にします。今年の箱根駅伝で優勝した青山学院大学は、「ワクワク大作戦」を合言葉に走ったそうです。
 当社でも以前から、打合せの時にたびたび「ワクワク係数」という言葉が飛び出しています。例えば要件を満たす2つの案のどちらが良いか迷った奥様が、「こっちの方がワクワク係数が高いわね!」という具合です。

 今から25年前、建築の仕事を始めるにあたり、勉強のために北米、北欧を中心に、木造住宅をテーマにした世界一周旅行をしました。
F.L.ライト設計の落水荘 (ピッツバーグ近郊)
 カナダ、アメリカ、フィンランド各地で知人を頼ってのホームステイ。オレゴンでの寮生活。フランク・ロイド・ライト設計の「落水荘」をはじめとする有名建築家の作品群。緑豊かな住宅街もあれば、砂漠の中に突如出現する住宅団地もあり。北欧の野外博物館に建つ古いログハウス。注文住宅、建売住宅、中古住宅、オープンハウス‥。
A.ガウディ設計のカサミラにて (バルセロナ)

 帰国後、様々な住宅や生活の体験を振り返ってみた時、中でも思い出しただけでワクワクするような住宅には、共通した3つのキーワードがあると感じました。

1つは「環境」です。
 良い住まいは周囲の環境と良く馴染んでいました。それは、単なる意匠のテクニックではなく、設計段階において街並みや風景、歴史や気候風土、地形などからのアプローチが十分に練られている結果だと思われます。
 また、家の中も自然と触れ合うインテリアデザインとなっています。つまり、光や風との対話、人に優しく温もりを感じさせる内装素材、潤いを与えてくれる植栽、眺めのいい窓、暖炉など。室内空間を単なるハコではなく、人が暮らす環境として捉えていると感じました。
 さらに、土間やポーチ、デッキやパーゴラなど、「内」と「外」という異なる環境をつなぐ工夫のバリエーションも、ワクワク係数をグングン高めてくれます。

2つ目は「個性」です。
 印象的な家にはそこで暮らすクライアントの個性、すなわち住む人の「その人らしさ」が良く表れていました。
 それは間取り、色や形、材質やディテールなどに表れるその人の性格や好み、価値観や人生観であったり、都会的かカントリー調かといったライフスタイルであったり、さらにはアトリエや書斎、ジャクージーやガレージなどの趣味の空間であったりします。
 それも外から形だけを持って来て真似たのではなく、住む人自身の中から出てきたオリジナルであることに益々ワクワクします。

3つ目は「コミュニケーション」です。
 暖炉のあるリビングや暖かみのある照明計画。家族や友人でシェアできるアイランドキッチン、キッチンとダイニングの適度にオープンなつながり、ホームパーティーを意識した間取りなど、家庭内の「だんらん」と家庭を取り巻く人々の「もてなし」を上手に演出し、心と心が通い合う住まいも愛情ワクワクです。

 「環境」「個性」「コミュニケーション」。
 ワクワク係数の3つのキーワードは、国の内外、時代の新旧を問わずに共通した要素だと思います。私もこの体験を家づくりに生かしてきました。
 3つのキーワードを基本コンセプトに、さまざまな要望や提案を出し合って一緒にプランを練り上げていく過程は、それ自体がお客様にとっても、私たちにとっても実にワクワクする体験です。
 もちろん敷地や予算などの制約はありますが、人や自然を結び、住む人それぞれの「らしさ」を大切にして、出来るかぎり「ワクワク係数」の高い住まいづくりをこれからも続けていきたいと思っています。
中島桂一
AO邸(高崎市) 設計施工:中島林産(株)